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第1期② 旦那が倒れてから心臓が止まるまで

脳外の医師から旦那が脳死状態になったことを告げられた。
昏睡状態で長くはないが、いつまで持つかは分からない。旦那さんの体力次第と言われた。
弟夫婦と職場に連絡したことは覚えている。

医師に、治験的な治療はないのか?ナノテクノロジーの治験とか、何か手はないのか?と聞いてみたが、何もないとのことだった。
旦那の脳のCT映像を見せてくれた。
造影剤が血管を流れているのが分かる。
そして、血管から造影剤が一気に漏れ出した。
そこで映像はストップ。
旦那が目覚める確立は、0%とは言わないが、限りなく0に近い。と言われた。

ERのベッドで眠っている旦那を見ながら、呆然としていた。
旦那の右の頬と顎に擦り傷が出来ていた。転倒したときにできたらしい。
これからどうなるのか?どうするのか?何も考えられなかった。
ついさっき、大丈夫だよって話してたのに。
今は、人口呼吸器をつけられてる。
これは現実なのか?
本当にもう二度と目覚めることはないのか?

旦那の両親は病院で泊まり、私はひとまず帰宅することになった。
正直、この辺はあまりよく記憶していない。
当時の殴り書きの日記を見れば分かると思うけど、とてもじゃないけどあのノートを開いて見ることことなんて出来ない。

夢か現実か、身体がフワフワしてた。地に足が付いていない感じ。
帰宅して、愛犬を抱きかかえて、わぁわぁ泣いた。
泣いて泣いて泣いて・・・
これが本当に現実なのか?なんでこんなことになった?
一睡も出来なかったことは覚えてる。
日曜日だった昨日、普通にお出掛けして、お家で一緒に晩御飯を食べて、眠って・・・
いつもと変わらない一日だった。

通常、私の方が早く仕事に行く。
私は旦那に、「おはよう~、行ってくるねー」とベッド際であいさつして家を出る。

旦那が倒れた日の朝、この朝は起こすのが何だか可哀想になって、いつものあいさつをせず、仕事に行った。
家で見た旦那の顔は、眠っている旦那の顔、これが最後になった。

翌日、病院へ行くと看護師から入院に必要な物を持ってきてほしいとリストを渡された。
本当に助けられないのか?
なんで助けられないのか?
医師や看護師に聞いたが、俯いて首を横に振るだけだった。

「聴覚は、最後まで機能する器官だと言われています。旦那さんに話しかけてあげてください。もしかしたら、目覚めるきっかけになるかもしれません。」

私は旦那に話しかけ続けた。
「今の医学では、君の脳を治すことはできない。人間本来が持つ治癒能力で治すしかない。お願い、頑張って!こんなに早く私を置いていくな・・・頑張ってくれ。」

私は、再度医師に聞いた。
「このまま眠りながら、旦那が自分で脳を修復していくとしたら、修復が終わるまでどのくらいかかるの?自己修復が終われば、目覚めるってことよね?」

「脳は一番複雑な器官で、気の遠くなる時間が必要です。修復が終わるまで肉体が持たないと思われます。自分の経験から、最初の3日を超えたら、だいたい1週間から10日ほどで心臓が止まるケースが多いです・・・あくまで自分の経験上の話ですが、今の旦那さんの状態から目覚めた患者さんは一人もいません。旦那さんが目覚める可能性は0%じゃないですが、限りなく0に近いです。」

目覚める可能性は、0じゃない。

自分の父親に連絡した。
とにかく買い物に行かねば・・・
買い物から戻ってくると、面会などの入院ルールの説明を受けた。
そして、父親と再婚相手が来た。事情を説明し、私の叔父叔母たちに連絡した。

この日の夜、さすがに少し疲れたのか明け方、少し眠ってしまった。
旦那の夢をみた。

真っ白な空間にたくさんのドアがあった。
旦那は、楽しそうにスキップしながら、どのドアを開けようか迷っているようだった。
私は旦那に話しかけたが、聞こえていない。
私がいるところは、真っ暗闇で旦那の居る空間とはガラスのような透明バリアで仕切られていて、旦那のところに行けない。
旦那が一つのドアノブに手を掛け、開けようとしたとき、私は透明バリアを思いっきり叩きながら、叫んだ。

「これは夢じゃない!現実なんだよ!!そのドアを開けたら、2度とこっちの世界に戻って来れないんだよ!これは夢じゃない!!そんなに死にたいのか!!!」

旦那は、驚いた顔をして私を見た。
そしてドアノブから手を離した。

ここで目が覚めた。
私は愛犬にご飯をあげて、すぐに病院へ向かった。
そして旦那に話しかけ続けた。
「戻ってくれて、ありがとう。お願い、頑張って。諦めないで。この身体を治せるのは、君自身だけ。お願い、頑張って。」
面会が可能な限り、私は旦那の側に居た。

目覚める可能性は、0じゃない。

この言葉だけが、私を支えていた。

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